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森の魂に触れる、氷ノ山



ホードー杉
ホードー杉

氷ノ山を代表する樹木といえばブナだろう。植林伐採を免れたブナ林は、この
山を訪れる人の癒しの森であると同時に、この山で暮らす生き物たちにとって
は重要な餌場であり、ねぐらである。しかし、この山の「主」を思い浮べると
き、私はどうしてもホードー杉でなければいけないような気がしている。

標高1100m帯の氷ノ山中腹、普段は人の立ち入らない静かなブナの森に守
られるようにホードー杉の孤高の姿がある。今日の登山はこのホードー杉に会
いに行くのが目的だった。

但馬の巨木の調査を継続中の仲間のよっくん、ホードー杉との初めての対面を
心待ちにされていた樹医のMさんのお二人のガイド役という立場で、ガスに煙
る鉢伏高原の駐車場から歩き始めた。三人とも上下カッパで身を固めて万全の
態勢。台風の余波が降らせている雨も、これから急速に回復に向かうことを確
信しての山歩き。時折吹く強めの風にも不安は無い。

目につく植物の名前をお二人の専門家に尋ねながらの尾根歩きは、ガスの中で
もまったく退屈しない。写真は帰り道に残しておき、観察モードでゆっくりと
高度を稼いでゆく。大平頭(おおなるがしら)の急登も、湿った空気のおかげ
で全く楽に登れてしまう。ホードー杉の分岐で一休みしてから、沢に沿って下
りて行く。

お昼の御馳走用にと、目に付いたスズノコを少し戴きながら、分岐から20分
ほどでホードー杉に到着した。ガスに煙ったホードー杉とそれを囲むブナの森。
コマドリやクロツグミの美しい鳴き声が森閑の中から響いてくる。久しぶりに
対面したホードー杉の威容は、やはり氷ノ山の主と呼ぶに相応しいし、この森
の魂とも呼ぶべき神聖さをたたえている。

すでに雨は上がって、下から上昇するガスの動きが早い。まずはお弁当で腹ご
しらえ。よっくんはコンビニ弁当、私はコンビニオニギリ、Mさんは山に行く
ときはいつも作ってくれるという愛妻弁当。沢音と頭上にクロツグミの歌を聞
きながら、茹でたスズノコをみなさんに振る舞う。ブナの水で茹でた採れたて
のスズノコは最高の御馳走だ。マヨネーズで美味しく戴いた。

昼食後は今回の最大の目的である幹回りの計測。計測のためによっくんが準備
した長さ1.3mの塩ビのパイプが、地上からの計測位置を示す冶具。ホードー
杉の幹回りはちょうど12mあった。ちなみに屋久島の縄文杉の幹回りは16
mということだから、ホードー杉は縄文杉には及ばないものの、充分に存在感
のある立派な天然杉だ。下から見上げると張り出した太い枝が、今なお強い生
命力を保持していることを感じさせてくれる。この杉は数本のスギの合体木で
あろう。様々な着生植物を宿しながら、遠い過去から遠い未来に渡ってここに
存在し続ける。その幹の根元は岩のような樹皮を剥き出しにして、もはや杉と
いう樹木を超越した生命体であるかのようだ。

それぞれがホードー杉との対話を楽しんだ後、帰路につく。強風で折れたブナ
の枝を拾い上げて見ると、たくさんの実がついていた。今年の秋は、森の恵み
はきっと豊かだ。チシマザサの藪に入ってお土産のスズノコを少し採取する。
もうすっかり大きくなってしまっていたが、家族の口に入る分だけはなんとか
戴けた。林床にはツクバネソウチゴユリユキザサヤブレガサギンリョ
ウソウなどが、雨粒を抱いて美しい。

大平頭の急斜面を下りると、先に1パーティの姿があった。台風余波の天気の
中、粋狂な人たちはやはりいるものだ。まあ、我々も同じだが。鉢伏高原の尾
根に下りる頃には、ガスの切れ間から日が射してきた。振り返ると氷ノ山山頂
も姿を現した。いつ見ても、どっしりと大きいいい山だ。

往路で教わった植物を復習しながら、撮影モードで超のんびり歩く。鳥の種類
はたかだか600種ほど。植物は7000種とも言われているので、覚える作
業はなかなか進まない。先ほど教わった名前もすぐに忘れてしまう。記憶力の
衰えた脳ミソには、なかなかの試練ではある。ドロノキハムシを見つけた。
大型で綺麗なハムシ。ヤナギの仲間が食草だが、尾根にも高原にもヤナギは沢
山生えている。下界ではとっくに終わったスミレ、ここではまだ花期の最中。
フモトスミレスミレなどを撮影。植物談議も尽きないお二人の専門家の上を、
上昇気流に乗ったイワツバメやコシアカツバメがビュンビュン飛んだ。

小代越からの階段道を下りながらもフタリシズカアマドコロなどを撮影。
よっくんはと言えば、すげぇマニアックなスゲの仲間を採集されていた。こう
いうマニアックな人がいてこそ、但馬の自然の貴重性が次第に明らかにされて
きたのだ。高原に降り立つと、ガスはすっかり消えて青空の中に鉢伏山の姿が
あった。自然学校の子供たちの賑やかな声に混じってカッコウの声が聞え、道
端のヤマナラシの葉が風にカサカサと鳴った。

 ※植物リスト
 スミレ、ツボスミレ、フモトスミレ、アリアケスミレ、
 ミヤマニガイチゴ、ナワシロイチゴ、クマイチゴ、コバノフユイチゴ、
 カスミザクラ、アズキナシ、ズミ、ナナカマド、アマドコロ、チゴユリ、
 ホウチャクソウ、オオバギボウシ、フタリシズカ、ヤマジノホトトギス、
 スイバ、ヒメスイバ、アオスゲ、ヤマテキリスゲ、カワラスゲ、ユキザサ、
 ギンリョウソウ、ヤブレガサ、オオカニコウモリ、モミジガサ、
 オオイワカガミ、エンレイソウ、ツクバネソウ、サンカヨウ、ススキ
 ブナ、ミズナラ、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、コミネカエデ、
 オオカメノキ、ヤブデマリ、ヤマアジサイ、イワガラミ、シナノキ、
 ミヤマシキミ、ヒメモチ、ヤマヤナギ、ヤマナラシ、チシマザサ

 ※野鳥リスト
 カッコウ(初認)、ツツドリ、ホトトギス、ヒバリ、セッカ、イワツバメ、
 コシアカツバメ、ヒヨドリ、ウグイス、ヤブサメ、コマドリ、クロツグミ、
 オオルリ、カワラヒワ、トビ

 【 登山日 】03年6月1日(日)
 【 目的地 】氷ノ山ホードー杉
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】鉢伏高原よりピストン
 【 天 候 】雨のち晴れ
 【メンバー】よっくん、樹医Mさん、たじまもり
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】中央駐車場11:05…小代越11:30…ホードー杉分岐12:15…
       ホードー杉12:35-13:45…ホードー杉分岐14:20…小代越15:25…
       中央駐車場16:05