稜線漫歩、秋風の鉢伏山


鉢伏高原からの稜線
鉢伏高原からの稜線


 二日続きの好天に誘われて、前日の来日岳に続き今日も山を目指すことにし
 た。遅い朝食をとってからでも、目的の山を決めてブラっと出掛けられるの
 が、山国に暮らす者のありがたいところ。さてどこにしようか。丹後の金剛
 童子山も気になったが、ススキの高原を歩きたくなって鉢伏山を目指すこと
 にした。本日のお供も、ここのところ私のよきパートナーとして歩いてくれ
 るこたじま/GEN。

 途中のマーケットで食料を仕入れ、鉢伏高原中央駐車場に車をつけたときに
 はすでに昼を回っていた。久しぶりの鉢伏稜線は、下り坂に向かいそうな高
 い雲を従えながらも、青空の中にクッキリとそのダイナミックな広がりを見
 せており、思わず感嘆の声が出てしまう。昼飯はあの上に登ってからにしよ
 うなと、めざす稜線を指差してこたじま/GENに申し伝える。

 スキーゲレンデの中の遊歩道に沿ってゆっくりと登ってゆく。草原だった丘
 には重機が入り、新しいバーンの整備が進められている。その向こうの斜面
 ではカラフルなパラシュートが見え隠れし、ハンドマイクの講師の声が聞こ
 える。工事中のゲレンデを直登し、左から巻いて尾根に上がる遊歩道を逸れ
 てリフト終点を目指す。
鉢伏山と右の小鉢
鉢伏山と右の小鉢
パラグライダーの講習
パラグライダーの講習
 稜線の壁が目の前に迫り、めざす踏み跡が壁に刻まれているのを確認する。  しかし、目の前の小山のトレースが明瞭ではない。ブッシュの中に僅かな踏  み跡が見えるが、これを右方向から攻めたのが間違い。しばらく薮を泳いで  小山を越えるとトレースに合流した。背の低いこたじま/GENが難渋しながら  もついてきた。なかなか頼もしい。地面に目をやれば、ウメバチソウの白と  リンドウの青い花が美しい。
ウメバチソウ
ウメバチソウ
リンドウ
リンドウ
 いよいよ壁に取り付く。ぐんぐん高度を上げ、一歩毎に稜線が近づく。一息  ついて鉢伏山を望めば、パラグライダーが気持ち良さそうに稜線上を舞って  いた。あっけなく稜線に出たあとは、広い尾根道の急斜面を行く。  上り切った道端でランチタイムとする。駐車場からここまで約50分。こた  じま/GENの歩行ペースも、一緒に歩くのに不足はない。  いつものようにインスタント味噌汁を作り、寿司をほお張る。上空には雲が  広がり始め、逆光のシルエットとなって目の前にある氷ノ山山頂にも雲が掛  かり始めていた。
稜線を舞うパラグライダー
稜線を舞うパラグライダー
ランチタイム
ランチタイム
 我々の前を、一組の家族連れと一組の老夫婦が過ぎて行った。腰を上げて秋  岡の谷を覗いてみる。谷向こうの山肌にへばりつくように、棚田や民家が見  える。足元から左に目を移せば、小代越付近に向かって新しい林道取付けの  工事が進んでいたが、観光目的に利用されるのであろうか。その向こう、陣  鉢山のピラミダルな姿も見えている。霞んだ奥の稜線を双眼鏡で追えば、扇  ノ山のモヒカン刈り状のブナ林が見えた。もうすぐあのオブジェの森も美し  く彩られるだろう。
秋岡の谷
秋岡の谷
 人心地ついたところで出発する。ススキの揺れる稜線歩きは気持ち良い。足  元には鉢伏高原の緩やかなススキ野のうねりが広がり、その向こうに大きな  氷ノ山がある。その東尾根の向こうには三室山が見えている。  鉢伏の尾根を渡る風に乗って、アマツバメがスクランブルを繰り返し、我々  の回りにはうるさいほどの赤とんぼが群れ飛ぶ。
鉢伏高原と氷ノ山
鉢伏高原と氷ノ山
 尾根道が細まり、少し下って鉢伏山の斜面に取り付く。こたじま/GENを背負  子に背負ってこの斜面を登ったことを思い出す。今はしっかり自分の足で私  の先を行く我が子の成長振りを感じた。粘土質の急斜面に付けられた階段は  水流にえぐられて荒れ放題。滑りやすい道を登るのに、トレッキングポール  が頼りになった。  相変わらずリンドウの花が目立ち、ヤマアジサイの青も目を引いた。左手の  谷になだれ込む広葉樹林の色づきはじめた様子を眺めながら、一歩一歩確か  めるように体を引き上げて行った。
目指す最後の壁
目指す最後の壁
ヤマアジサイ
ヤマアジサイ
 1221mの鉢伏山山頂は、いつもながらの殺風景な景色。鉢伏高原、ハチ北高  原からのリフトの出会う広場でしかない。山頂ケルンの前で記念撮影。セル  フタイマーのシャッターが切れる瞬間に、赤トンボがカメラの前をよぎった。  先客がハチ北斜面で歓談中。少し離れたところで我々も腰を下ろし、山頂の  コーヒーを入れる。
鉢伏山山頂
鉢伏山山頂
 こたじま/GENは、右手の芝生の斜面をゴロゴロと転がり下りては声を上げて  いる。熱いコーヒーをゆっくり味わいながら、眼下の景色を眺める。すっか  り様変わりしたハチ北高原の姿、林道で切り裂かれた瀞川の稜線、正面に霞  む妙見山・蘇武岳・三川山の但馬中央山脈。そんな風景の見える空を、パラ  グライダーが次々に飛び立っては、旋回しながら舞い下りて行った。
山頂から瀞川方面の展望
山頂から瀞川方面の展望
 リフト小屋の横に、様々な形をした石が並べてある。スキーリゾート開発に  伴って、点在して置かれていた由緒ある石をここに集めたものと説明があっ  た。これらの石が元々あった位置関係を示す図もあり、何か儀式めいたもの  も感じた。改めてこれらの石を観察してみると、付けられた名の通りの形を  しているのが興味深い。鬼面石は、なるほど鬼の顔だし、陰陽石は、さて…
鬼面石
鬼面石
陰陽石
陰陽石
 若いカップルが上がってきてジャラジャラしはじめたのをきっかけに、大幹  線林道方面への下山路に向かった。その前に、危険に付き立ち入り禁止のロー  プを無視して小鉢に立ち寄る。この上にも、さらに若いカップルがネチネチ  やっている。あんたら、勝手にやってなはれ。そそくさと下りる。  こちらの道はご丁寧な、それもお子様向け歩幅の階段が延々と続いている。  誰のための階段か分からないが、大方の登山者はその脇を歩くに違いない。  踏み固められたトレースが階段と平行して続く。この下りでもトレッキング  ポールは頼りになる存在であった。我が子にジジイ扱いされようが、これか  らの私の山歩きには欠かせない道具となる実感があった。何事も道具である。  それも良い道具というのが、遊びを豊かに楽しくしてくれるものだ。
林道に出る
林道に出る
 林道に合流すると、次々にRV車が通過して行く。これ見よがしに、エンジ  ンを吹かして通り過ぎる車が腹立たしい。歩けよ!山は。ま、大きな口を叩  ける身分ではないのだが。しばらく舗装林道を歩き、ヘアピンカーブで高原  に戻る。「したやまみち、って?」と、こたじま/GENが尋ねる。下山道の道  標を見ながら、正しい読みを教育する。  あいかわらず続くパラグライダー教室の様子を眺めながらゲレンデを下りる。  記念碑の裏では、膝枕のカップル。駐車場に戻って、山頂で1220mに校正し  ておいた腕時計の高度計を確認する。910mを示しており、標高差はおおよそ  300mであったことを確認した。山頂からの下山時間は50分。
氷ノ山の撮影ポイントより
氷ノ山の撮影ポイントより
別宮の大カツラ全景
別宮の大カツラ全景
 自動販売機で冷たいジュースを仕入れ、車の人となる。  帰り道、別宮(べっく)の大カツラに立ち寄った。案内板のある路肩に車を  寄せ、まず右手の棚田越しの氷ノ山の絵になる風景を撮る。大カツラの紅葉  が始まっており、淡い色合いが目に優しい。    ひこばえの根元からは、冷たい山の水がとうとうと流れ出ている。長い間は  手をつけていられないほどの冷たさだ。この水で手を洗い、手ですくった水  を一口戴いた。こたじま/GENも私に続いた。「冷たくて美味しい!」
ひこばえの様子
ひこばえの様子
寄り添う幹たち
寄り添う幹たち
 「少し眠ったら?」  帰途につく車の中で、二日続きで私に付き合ってくれたこたじま/GENに言っ  た。眠くないからと、しばらく景色を眺めていた彼だったが、気付けば後部  座席に横になってしずかな寝息を立てているのだった。その寝顔がいつもに  も増して幼く見え、思わず笑みがこぼれた。  【 登山日 】98年10月11日(日)  【 目的地 】鉢伏山(1221m)  【 山 域 】但馬山岳  【 コース 】鉢伏高原中央駐車場より時計周り周回  【 天 候 】晴れ  【メンバー】こたじま/GEN(小3), たじまもり  【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」  【 タイム 】自宅10:45 → 鉢伏高原P12:07-12 → 稜線12:55 →        ランチタイム13:00-35 → 山頂14:02-30 → 林道合流14:55 →        鉢伏高原P15:20                         ○▲▲たじまもり▲▲☆