上の子二人はそれぞれの予定が、末っ子は前日から風邪らしい微熱を出して
休養と相成った。夫婦二人で山に出掛けるのは、実に十数年ぶりのことでは
無いだろうか。いつもは喧騒に満ちた車内も到って静か。カーラジオも消し
て取り止めのない会話をしつつ大屋の谷を詰める。
途中、開店間も無いスーパーで食料とビアを仕入れる。このスーパーの裏手
から大屋川の川下りを始めるのだが、ここ2年ほど大屋川から遠ざかってし
まっている。大屋市場から天滝口を通り、初めての道をさらに車で走る。
氷ノ山横行渓谷の入口である栗ノ下を通過。すぐに上りとなり、若杉(わか
す)の集落に出会う。そのまま直進すれば良かったが、古い地図に従って村
中の細い道に入ってしまう。狭まった谷に、ひっそりとした村の暮らしがあ
り、古い家屋の玄関横の牛舎は、今では物置になっている。村を抜けると再
び幹線に合流し、やがておおやスキー場のゲートに迎えられた。
スキー場のどん詰まりに「ロッジふじなし」があり、ここが本日の集合場所。
遅刻常習犯の我が家、本日は一番乗りのようだ。すぐにあきゆき号が現れ、
次々にメンバーが到着。ロッジ横の人工芝のグラススキー場は、朝から結構
な賑わいだ。本格的なシーズンインを前に、若者たちが調整に余念がない。
全員が揃ったところで下の駐車場に車を移動させ、登山開始。のっけからゲ
レンデ直登という厳しい試練。結構な斜度である。鹿が多いようで、そこか
しこに丸い糞が落ちている。時折混じる大きな糞は猪のものだろうか。100m
あまりの標高差を一気に登り切り、リフト終点で一息つく。
リフト終点で一息
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第2ピークから望む藤無山
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快晴の青空に、紅葉が最後の輝きを放って美しい。ここから尾根伝いの山道
に入る。広葉樹の林を抜けると、すぐに厳しい登りが待っていた。先頭を行
く私はすぐ後ろにピッタリ付いてくる俊一君のペースに急かさせるように、
オーバーペースで進む。息を切らしながら、腕時計の高度計で920mの第1ピー
クに出た。尾根はこの先で直角に曲がり、南東に向って山頂に到るようだ。
谷越しの前衛の向こうに、藤無山のピークがちょこんと見えた。
第1ピークからスギ植林の暗い道を少し下り、鞍部から再び厳しい登りが始
まる。左斜面はスギ植林が続き、役目の終ったらしい鹿除けネットがあちこ
ちに放置されている。ぜーぜー言いながら第2ピークに出る。振り返れば、
氷ノ山の南尾根が緩やかに裾野を広げている。行く手には、もう一つのピー
クが迫り、目指す藤無山はその向こうであった。溜息をつく。
第3ピークへの尾根歩きも単調で辛い。左は植林、右は伐採地、尾根筋に残
る僅かな広葉樹が慰めになる。道端にめぼしい秋の花も見付けられず、ただ
もくもくと登る。左の樹間越しにスキー場上部の紅葉が眼下に遠ざかり、氷
ノ山のピークと大段ヶ平から東に延々と延びるフラットな尾根、その向こう
に鉢伏山の見慣れた山容があった。右手は播州の山並みが続いている。手前
から三久安山、その奥に阿舎利山、一山も見えているようだが、いずれも異
国の馴染みの無い山だ。この尾根が、播但を隔てる国境であることを知る。
第3ピークを越えれば、但馬の山並みが左手に浮かび上がってくる。コナラ
やミズナラの落ち葉を踏みしめて、最後の一登り。先客で賑やかな1139m二
等三角点の山頂に立つ。雑木で展望は良くないが、雲一つ無い青空の山頂は
すがすがしい。さっそく思い思いのランチタイム。かねちゃん親子はカップ
麺、佐竹さんはコンビニ弁当か、おお、新婚のかいさんはパンを齧っている。
我が家は手作り弁当に、熱いカップ味噌汁。妻たじはは味噌汁よりビールが
ご飯に合うらしい。私の分まで口を付ける有り様だ。
賑わう1139m山頂
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南東に段ヶ峰
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人心地ついて樹間から展望を楽しむ。南東方向に平坦な稜線で大きな山容を
誇っているのが段ヶ峰。昨日、あきゆき夫妻が登ってきたばかりの山だ。
そこから反時計周りに目を移せば、粟鹿山、東床尾山などが霞んでいる。真
東の大きな山塊は須留ヶ峰。人里は深い谷に隠れて見えず、藤無山の奥深さ
を思った。先ほどから、無線に余念のないのが丹波のたぬきさん夫妻。ここ
からだとさぞやよく飛びそうだ。
山頂を後にして、すぐ北の開けた場所で但馬山岳の中枢部を展望する。この
角度から馴染みの山々を見るのは初めてだ。それにしても、氷ノ山の大きさ
はどうだ。稜線上に杉ヶ沢や加保の高原野菜畑が見え、北側を屏風のように
遮られた深い谷間に大屋の人々の生活がある。
山頂北の開けた場所からの但馬山岳展望
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下りは到って快調。ポールのお陰で、膝の痛みも感じない。第2ピークで、
もう一度氷ノ山の南尾根の姿を確かめる。第1ピークの急坂を下り、稜線上
の広葉樹の鮮やかないろどりを充分に味わう。予報によれば、明日からは冬
型に向うらしい。紅葉も葉を落とし、山は足早に冬支度を始めることだろう。
長く延びる氷ノ山南尾根
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青空に映える紅葉
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ゲレンデ上部にパラグライダーのおじさんが居て、一時間も風を待っている
のだという。やっと風が出て来たと、テイクオフの準備を始めた。弱い風が
少し吹いて、おじさんがパラシュートを上げたが風が弱すぎた。パラシュー
トは膨らまずに萎えて地に落ちた。
右の斜面で、妻たじまが尻滑りに挑戦している。ぜんぜん滑らないようで、
再びとことこと下り始めた。しまいには、こっち向きの方が歩き易いと言い
ながら、後ろ向きに下り始める始末。下りきると同時に、真っ白なパラシュー
トが青い空に舞った。フワフワと空を滑空しながら、我々の向こうに下り立っ
た。どこからともなく小さな拍手がわいた。
野性の雄鹿が、おそらく罠かネットに掛かったのだろう。殺されずに、スキー
場のお客の見世物として生き長らえていた。但馬の山では、増えすぎた鹿の
食害が由々しき問題となっている。そういえば、明日から狩猟が解禁になる
そうだ。私の山歩きも、春までお休みとなるだろうか。
ネット仲間との楽しい山歩き。またの再会を願いながら、錦に彩られた谷を
下った。久しぶりに手応えのある登山で疲れた妻たじまが、いつのまにか助
手席で寝息を立てていた。
パラグライダーの舞うゲレンデ
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飼われている野性の雄鹿
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【 登山日 】99年11月14日(日)
【 目的地 】藤無山(1139m)
【 山 域 】播但国境
【 コース 】おおやスキー場よりピストン
【 天 候 】快晴
【 同行者 】あきゆきさん夫妻,かねちゃん&俊一君,佐竹さん,かいさん,
丹波のたぬきさん夫妻,白夜の貴公子さん,大垣さん,妻たじま
【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」
【 タイム 】自宅8:10…スキー場下9:30-10:10…リフト終点(800m)10:30…
第1ピーク(920m)10:45…第2ピーク(955m)11:05…
第3ピーク(1050m)11:35…藤無山山頂(1120m)11:55-12:45…
第1ピーク13:40…リフト終点14:00…スキー場下14:20(690m)
(標高は腕時計の高度計による)
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