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強行突破の初登山、粟鹿山


山頂のアキアカネ
山頂のアキアカネ


 週末はクラブ活動に熱心な息子たじま/YUU。夏休みに入った最初の日曜日、
 珍しくフリーという彼と二人で山に向かうことにした。前夜、行き先を粟鹿
 山に決めガイドブックに目を通す。いつもは車から見上げるだけの山だった
 が、いよいよ初めてその山頂に立つという期待感があった。
 
 ガイドブックのルートに従い、山東町の西宮市立山東少年自然の家に車を走
 らせる。梁瀬の三叉路でR9からR427に入れば、右手に粟鹿山がいよい
 よ大きく迫ってくる。自然の家の道標に従って右折し、道は粟鹿小学校の前
 を通ってやがて粟鹿神社に続く。大きな森に抱かれ歴史と風格を感じさせる
 神社だ。神社の先の集落を過ぎれば、勾配を上げながら自然の家の施設に達
 する。
 
 どこに車を置けば良いのか、登山口はどこなのか、まったく分からないまま
 道なりにゆっくり車を走らせる。宿泊施設の建物を回り込んだところで鹿除
 けゲートが道を塞いでいた。ゲートを開けてさらに舗装林道を進む。すぐに
 ログハウス風の建物とそれを囲む駐車場に達し、ここが登山口であることを
 知った。初めてのアプローチで迷うことなく登山口にリーチできたことを喜
 んだのもつかの間。これから入ろうとしている登山路は「立入禁止」となっ
 ているではないか。山東町役場による立て看板の説明によれば、新しい林道
 工事のために今年の4月1日から平成16年3月31日の3年間の立入禁止
 となっている。迂回路は無く、西の奥山林道から登山せよと警告している。
登山口の道標
登山口の道標
登山口の立て看板
登山口の立て看板
 さて困った。いきなり奥山林道と言われても、まったく地理不案内である。  そもそも、この山にアプローチすること自体初めてなのである。予定通りの  道を行く以外、今回に限っては選択枝はないと思った。今日は日曜日でもあ  る。きっと工事は休みだろう。落石の危険についてはown riskで行こう。  そう自分に言い聞かせて、立入禁止の強行突破を決めた。  スギとヒノキの森からはクロツグミの美しい囀りが聞えた。不安な気持ちが  少し和らいだ。3枚目の警告板とトラロープをくぐれば、いよいよ傾斜が増  してくる。しかし、植林の森を辿る登山路はまったく面白みに欠ける。真夏  の登山には暗い森が有り難いということはあるが、この道はもう歩かないだ  ろうと思いながら足を進めた。「関係者以外立入禁止」というトラロープが  またまた行く手を塞いでいた。いよいよこの先が危険地帯らしい。左手に急  斜面が立ちあがり、登山路に大きな落石が転がっている場所を通過。この時  点ではまだ事情が飲み込めていなかったが、かなりヤバイ雰囲気を感じた。
登山路からの見晴らし
登山路からの見晴らし
NTT林道から見た山頂施設
NTT林道から見た山頂施設
 落石地帯のすぐ先、森が切れて展望の良い場所に飛び出る。大汗をぬぐいな  がらここで最初の休憩をとった。行く手には、これでもかといわんばかりの  立入禁止の看板があって、その裏の鹿除けゲートを開けてついに最大の危険  ゾーンに突入する。右手は谷となって落ち込んでおり、殆ど役に立たなくなっ  た鹿除けネットが登山路に沿って設置してある。    5分ほど歩いたところで、再び登山路に落石が重なっている地帯を通過する。  石ばかりでなく、大きな木の根が道を塞いでおり、障害物を跨ぎながら注意  深く通過する。これらが落ちてきた左斜面を仰ぐが、ここからは上の様子が  まだ分からない。水の音が大きくなり、このコース唯一の水場に到達する。  ここで登山路上に垂れ下がったノイバラの攻撃を受ける。Tシャツを突き破っ  た枝のトゲが、胸の筋肉に深く突き刺さった。身動き出来ないので、息子に  ザックからサバイバルナイフを取ってもらい枝を切り離したが、しばらく痛  みが残った。危険地帯に入り込んだ私に対する、山からの警告だったのかも  しれない。  水場で顔を洗う。冷たい沢の水が気持ちよい。沢を跨ぎ危険地帯と対面する  植林の斜面を登る。樹間から向こう側の斜面の様子がようやく理解できた。  登山路の真上に、赤土をむき出しにした林道工事の現場があった。青い重機  がショベルを垂れて止まっている。工事が行われている最中なら、今しがた  通過したばかりの登山路は、絶対に通行してはいけないことを悟った。また  工事が休みの日であっても、落石や切り株の崩落が大いに予測され、この登  山路を利用することは厳に慎むべきである。自分たちが警告を無視して立ち  入っておきながら言うのも何だが、登山路に設置された執拗なばかりの警告  板が意味することをこの目で確かめてきたのだから、これをお読みの賢明な  ハイカーは事情を正しく理解してもらいたい。
タケニグサ
タケニグサ
粟鹿山山頂
粟鹿山山頂
 相変わらず植林の暗い道が続き、先ほどの林道工事現場の光景も重なって、  おもしろくない思いで足を進める。途中、ヒノキ林の斜面を雌鹿が駆けて行  くのを見送る。勾配がきつくなって稜線の近いことを感じる頃、登山路を挟  んだ反対側に広葉樹の森がようやく現れる。少しだけ気持ちを取り直す頃、  白いガードレールが目の前に現れてあっけなくNTTの舗装林道に出る。  左に古いコンクリート建ての展望台があり立ち寄ってみるが、暑いだけで大  した展望があるわけではなかった。  ここから2Km、舗装林道を辿って山頂へ達する。歩きながらカッコウの声  が聞えた。オニヤンマの数がやたらに多い。林道からは丹波方面の展望が良  いが、景色は霞んで見えている。下界は今日もうだる暑さだろう。林道を歩  きながら、時折頬を撫でる爽やかな風が心地よい。45分歩いて山頂に達す  る。アンテナ施設は無粋だが、なるほど、ここからの展望は素晴らしい。
青倉山から朝来山の稜線
青倉山から朝来山の稜線
 地上の熱気とともに、景色が急速に霞んでくる。東床尾山や高竜寺ヶ岳など  がかろうじて認識できる。西に目をやれば、山頂の反射板が青倉山の存在を  教えてくれる。青倉山からの尾根を右に追いかけると、端正な形の朝来山が  佇んでいる。おや、青倉山の南に風力発電の巨大な風車が回っている。そん  な風景をおかずに、息子とコンビニお握りをパクつく。  NTTコミュニケーションズの看板のある施設の金網に沿って、石垣の奥に  入ってみる。ここからの展望はさらによい。足元は笹原が広がり、障害物の  ない雄大な展望が開けている。先ほど認知した新しい林道工事の現場も、こ  こからだとつぶさに様子が見て取れる。林業振興のためか、この大展望を当  て込んだ観光林道か。山肌を切り裂く赤土を見下ろしながら、ため息をつく。    足元にルリボシカミキリを見つけた。なかなかお目に掛かれない美しいカミ  キリだ。回りにはアキアカネが群れ飛んでいる。6月に田んぼで羽化し、暑  い夏の間を山の上で過ごす。地上では夏本番を迎えているが、山の上では一  足早い秋の気配を感じることが出来る。
ルリボシカミキリ
ルリボシカミキリ
林道取付け工事現場を見下ろす
林道取付け工事現場を見下ろす
 下山は来た道を忠実に辿る。NTT林道から登山路に入ってからは、一刻も  早くここを抜けてしまいたいという思いだけがあった。息子と二人で、駆け  るように下り切った。駐車場付近ではあいかわらずクロツグミが美しく囀っ  ていた。    登山口の道標に従い、せっかくだからと渓流散策に向かう。雌滝と、さらに  奥の雄滝を見物。前回の青倉山帰りにも利用した与布土温泉に立ち寄り、さっ  ぱりしてから帰途に付く。  「見上げる山、見下ろす山」 私にとって初めての粟鹿山は、そんな印象と  して残った。次回は別ルートからアプローチすれば、この山の印象もまた違っ  たものになるのかも知れない。
雌滝にて
雌滝にて
粟鹿地区から見上げる粟鹿山
粟鹿地区から見上げる粟鹿山
 【 登山日 】2001年7月22日(日)  【 目的地 】粟鹿山(962m)  【 山 域 】但丹国境  【 コース 】西宮市立山東少年自然の家登山口よりピストン  【 天 候 】晴  【メンバー】息子たじま/YUU(中2)、たじまもり  【 マップ 】「ふるさと兵庫50山」「但馬の自然」参照  【 タイム 】自宅7:43…登山口P(285m)8:50…展望岩(470m)9:20…        水場9:30…林道合流(705m)10:05…山頂(905m)10:50-11:50…        登山路12:18…水場12:35…展望岩12:45…登山口P13:00        ※括弧内の標高は腕時計の高度計の指示値