午後から崩れるという天気予報は、どうやら外れたようだ。青い空を見上げ
ると急に山を歩きたくなって、暇を持て余していた娘を誘って阿瀬渓谷に向
かった。金谷の村の中に、アスファルトで整地された大きな駐車場があった。
今後はここに車を置いて、渓谷歩きの距離を延ばすのもよいだろう。
いつもの駐車場まで車を入れる。他に車は無い。私は登山靴に、娘は長靴に
履き替えて、歩き始めたのが14時前。沢音の中から、ミソサザイの明るい
歌声が迎えてくれる。雪で倒れた杉が車道を塞いでいるのを跨ぎ、道端のス
ミレやヤマルリソウに目をやりながら山道に入る。
タチツボスミレ
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ヤマルリソウ
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雪解けの水をとうとうと落とす源太夫滝を左に見て、歩きなれた道を進む。
久しぶりに山を歩く娘は、山の雰囲気に触れるのが嬉しいらしい。倒れ岩の
手前でキセキレイのペアとカワガラスを観察する。双眼鏡を忘れて来たこと
を後悔しながらカラン橋(案内板には「ガラン橋」とあった)を渡れば、進
むにつれ登山路の上にも残雪が現れるようになった。
道端のキクザキイチゲが美しい。白い花の裏側は、茎に向かって紫のグラデー
ションとなっていて、表から見る清楚な印象とは違うあでやかさを感じさせ
る。エンレイソウの若い花が、傾いた日の光を透かせて綺麗だ。
キクザキイチゲ
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エンレイソウ
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道ぶちの小さな崖に水が滴り落ちていて、娘が手ですくってその水を飲んだ。
「おいしい!」と感嘆の声を上げる。山の水はうまいに決まっているのだ。
湿った地面には、ホクリクネコノメソウやコチャルメルソウといった、ユニ
ークな表情をした植物たちがいた。
ホクリクネコノメソウ
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コチャルメルソウ
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不動滝の急登を超えれば、残雪が一際目に付くようになる。早瀬に沿ってネ
コヤナギが揺れ、雪が解けた地面からはフキノトウが伸びていた。このあた
りは、ようやく春のめざめを迎えたばかり。あたりにはまだ、雪の匂いが残っ
ている。
実は、本日ここまで足を伸ばしたのは、ザゼンソウのことが気になったから
であったが、どうやらもうすっかり花は終わったようだった。みずみずしい
黄緑色の葉があるばかりだった。
フキノトウ
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分校前の雪
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歩き始めて1時間で金山廃村に到着。分校の建物は、かろうじて今年の雪に
も耐えたようだ。すでに半壊の状況ではあるが、正面から見れば今なお原型
を留めており、昔からこの建物を谷のシンボルとしてきた私には、胸をなで
おろす思いがした。しかし、もう、いつ倒れてもおかしくない末期の状況で
あることには変わりが無い。
分校前の広場は、まだたっぷりの雪で埋まっている。立ち木の周りだけ、丸
く雪解けている。川べりで腰を下ろす。川の水をすくい、「雪解けコーヒー」
と称してカップコーヒーを入れる。普段はあまりコーヒーなど飲まない娘が、
熱いコーヒーを啜っておいしいと言った。
たまにゃ娘と二人で歩くのもいいもんだ。そう思った。
【 登山日 】2001年4月7日(土)
【 目的地 】阿瀬渓谷
【 山 域 】但馬
【 コース 】金谷よりピストン
【 天 候 】晴れ
【メンバー】娘たじま、たじまもり
【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
【 タイム 】自宅発13:17…阿瀬渓谷P13:54-13:56…不動尊14:37…
金山廃村15:00-15:27…不動尊15:54…P16:53
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