夏鳥が歌う谷へ 但馬・阿瀬渓谷
 みなさんそれぞれの連休の過ごし方をされたようで、この会議室の書き込みを楽  しく読ませて頂いております。私は仕事の関係から、2日間しか休みが取れませ  んでしたが、何とか山を歩くことができました。ここで報告する阿瀬渓谷は、以  前マウンテンダンスさんがご報告になっている場所で(#1316 参照)、私達家族  も冬を除く季節毎にハイキングに出掛ける所です。  【目的地】阿瀬渓谷  【登山日】1994年5月4日(水)  【天 候】晴れのち雨(;_;)  【コース】日高町金谷より金山廃村ピストン  【マップ】持たず  【同行者】配偶者、長女(8才)、長男(6才)、次男(4才)  【タイム】時計を持たないのんびりハイクです(^^)  雨になるとの予報に反し、朝から良い天気。急遽、阿瀬渓谷行きを決定する。  豊岡から一つ南の町日高町より、神鍋高原に上がる道を走る。田圃の中のバイパ  ス道が大きく右カーブを描きながら登りに差しかかるころ、阿瀬渓谷の標識に従  って左に入る。この交差点をそのまま進めば、すぐ左手に今春オープンしたばか  りの「植村直己冒険館」がある。帰りに立ち寄る予定にする。  谷が狭まり、左の渓流沿いに緩い登り道を進むと、最後の集落である金谷に着く。  JR江原駅からの路線バスの終点である。村中の細い道を抜けると山はいよいよ  迫り、渓流の横にヤマメ料理を食べさせる一件の茶屋に出会う。この谷で人の気  配のする最後の家である。この茶屋でのヤマメ料理は人気があり、予約が必要で  ある。(「阿瀬」TEL:0796-44-0723 ) 渓流釣りの人も多い。  この先の左手に、発電所が見える。一般車道はこのあたりで終わり、先は車一台  がやっとの簡易舗装の道が1Kmほど続いている。いつものように車を進め、ハ  イカーのための駐車場まで入る。この駐車場、車10台分くらいしかスペースが  無いので、混雑するシーズンでは遅い入山時の場合、下の発電所のあたりの膨ら  みに車を置く方が賢明である。この駐車場にはトイレと渓谷の案内板がある。  車から下りるといきなり、ツツドリの歓迎を受ける。谷間にこだまする「ポン・  ポン・ポン」と木の筒を叩くような鳴き声。もう森は夏への準備を始めているの  だ。学生時代から愛用しているドタ靴に履き替え、駐車場を出発する。車の時計  で11時30分を確認。今日は二人共、時計を忘れてきた。まあいい。今日は時  間を気にしないで歩こう。腹が空いたら食べよう。日が傾いたら、山を下りよう。  しばらく舗装道を歩き、車が入れるどんつきの所にトイレ付きの休憩所がある。  谷の向こうに大きな滝が眺められる。源太夫滝とよばれる渓谷最大の滝である。  この滝の下の広場は、夏にバーベキューを楽しむには恰好の場所である。滝の霧  が天然のクーラとなって気持ちが良い。ここから先、渓谷沿いの山道を歩く。  源太夫滝を望む場所から少し登った所に、思案橋という橋に出くわす。この橋を  渡れば左の谷を詰めて、山越えで本道と合流する。我々はいつも通り橋を渡らず、  真っ直ぐにコースをとる。オオルリやミソサザイといった歌い上手な鳥たちの声  が、48滝と呼ばれる渓流の流れの中から聞こえてくる。水はあくまでも清らか  で、新緑のパステルカラーが目にやさしい。突然、ジュウイチの声。その名の通  り、「ジュウイチ・ジュウイチ」と大声で囀る。まさに夏鳥である。  ヤマルリソウ、イチリンソウ、ネコノメソウ、イカリソウといったお馴染みの花  が目を楽しませてくれる。一汗かいた頃、村のサイレンの音が昼を告げた。おな  かが空いたね。不動滝の下で弁当を広げる。見上げるとトチの大木が覆い被さる  ように若葉を広げている。ふと足元の渓流の淀みに小魚を見つける。滝と滝で隔  絶されたこんな場所にも、生命を守っている生き物がいることに感動する。子供  がオニギリのご飯を少し投げ込む。しばらくじっと見ていると、どこからともな  く次々と魚が集まってきた。集団で恐る恐るご飯に近づいては、ピュッと岩陰に  隠れる。また近づいては隠れる。そうこうするうちにご飯を食べはじめた。30  匹くらいの魚が小さな淀みで動き回るのを、飽きもせず眺めていた。子供たちは  すっかり飽きてしまった様子だったが。(^^;  昼飯を済ませ、金山廃村を目指す。お不動さんの上のダムを過ぎると、思案橋を  渡って周回してくる道との合流地点に出くわす。道は渓流の際を流れに沿って続  く。ザゼンソウの葉が目立ち始める。雪溶けの頃、このあたりはザゼンソウが見  事だ。今回は花は終わっていて、残念ながらあの神秘的なアズキ色の花を見るこ  とは出来なかった。最後の登りを終え、橋を渡ると金山廃村である。石垣の積ま  れた場所にかつての村の幻を見る。その昔、金の採鉱で賑やかだった村も今はひ  っそりと山だけのものなった。私が高校生の頃は、未だ茅葺きの民家が朽ち果て  ながらも残っていたものだ。私のアルバムにはその廃屋の前で撮った写真が残っ  ており、大学生の私と高校生の配偶者が写っている。(^^; コンナコトニナロウトハ・・・・  かつての分校の前の広場が、いつもの終点場所である。この分校は地元の山岳会  が一時手を入れて、山小屋としての利用を試みられたようだが、今では荒れ放題  となっているようである。水を汲み、トランギアで湯を沸かす。風が強いせいか、  気温が高いせいか、湯が沸騰する前に一杯に補充してきたアルコールが無くなっ  てしまった。また、風にあおられた炎が回りの枯れ草に引火するのも困りものだ。  風を避け、枯れ草の無い場所での使用が良い。マウンテンダンスさんのような不  幸な顛末にも気を付けたい。カップ麺はバーナの近くに置かない。鉄則である。(^^;  金山を後にする頃、西の方から怪しげな雲が流れてきた。来た道を戻り、周回道  との分岐で私と長男の二人はこの道を辿ることとする。下の休憩所での再開を約  束して配偶者達と別れる。道はいきなりの急登となり、空想の別荘「松風園」と  続く。マウンテンダンスさんの報告にもあった場所である。灌木の中の広々とし  た丘のような場所。樹間から妙見山、蘇武岳が望める。いつしか谷間に雲が下り  てどうやらパラついてきた。イワカガミが目立つ小さなアップダウンを越え、  「洗心台」と名付けられた小ピークに着く。六百何十メータという(忘れた(^^;)  標高が掲げてある。松の枝に吊るされたブランコがあったりする。この頃には雨  が本格的に降り始め、子供とゆっくり遊んでる時間もなく、思案橋目指してひた  すら下る。  登りに使うとかなりのアルバイトを強いられる尾根道を一気に沢まで駆け降り、  沢沿いに下る。若林廃村を通過、ダムを越えて下る。ダムから少し下ったところ  に磨崖仏の案内。「気をつけて」と書かれており、見上げると鎖が一本下りてい  る。なるほど、この鎖で磨崖仏の断崖まで登る訳だ。雨が強くなり、雨具も持た  ない濡れ鼠の親子二人には、この寄り道は無用。またの楽しみとする。沢の音が  高まり樹間から休憩小屋が見えて一安心。と思った瞬間、雨で緩んだ石が崖の上  から崩れ落ち、目の前を谷底に転がって行った。思わず緊張して、子供の手を取  りながら走るように崖下を通過する。思案橋を渡り本道と合流。みんなが待つ休  憩所に到着。  配偶者達は雨の前に休憩所まで下りて来たらしく、30分余りここで待っていた  という。「案外早かったわね」とタオルを渡しながら言う。思えば、6才の息子  を1時間余り休みなく歩かせたことになる。中々やるな、コイツ。  早く帰って風呂に入ろう。という訳で、「植村直己冒険館」はパス。またゆっく  り訪れたい。駐車場で靴を履き替えている間も、朝と同じようにツツドリの声が  谷間にこだましていた。   94/05/07 簡潔にまとめることを知らない(^^ゞ ▲CATHY (PED02620)♪ ↑ページトップへ