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ミソサザイ囀る、阿瀬渓谷



ミソサザイ
ミソサザイ* (スズメ目ミソサザイ科/Wren)

車を止めて外に出た。小学校の上空をイワツバメ*が飛んでいた。ツバメの初
認は春到来の気分を高めてくれる。朝から広がった青空は、ゆっくり薄い雲が
掛かってゆくようだった。

いつもの路肩に車を置き、装備を確認する。背中にザック、腰にはレンズ2本
を入れたウェストポーチ。シャツの左ポケットに携帯電話、右ポケットにIC
レコーダを、いずれもネックストラップ付きでしのばせる。左手には300ミ
リを付けた一眼レフ。トレッキングポールは結局車に残したまま、右手だけは
フリーにした。残雪を見越して、足元は履きなれた長靴。

歩き始めてすぐヤマエンゴサクが目についた。やがてタチツボスミレが道すが
ら楽しませてくれる。途中、ミソサザイが2度、道を横切って藪に消えた。
車道が終わると減太夫滝を左に望み、ゆっくり高度を上げてゆく。

ヤマルリソウがポツポツ出始めている。青い金平糖のような小さな花に、いつ
も目をうばわれてしまう。カラン橋のたもとの湿った場所にタチネコノメソウ。
しばらく行ったいつもの水場にコチャルメルソウとサンインネコノメ。毎年変
わることのない生き物の営みを確認する山歩き。急ぐわけでなし、ピークをハ
ントするわけでもなし、こういう山歩きをずっと続けている。

登山路に雪が出てきた。しばらくは渓流釣りのものと思われる足跡があったが、
不動尊への急登に掛かるころには、雪の上は獣の足跡だけになった。このコー
スで唯一、携帯電話の電波が届くエリア。不動尊で一休みしながら、携帯で撮っ
た雪の登山路写真を妻に送信した。「気をつけて」の返信。

雪解けから顔を出したばかりのフキノトウを撮り、やがてザゼンソウに出会っ
た。今日の阿瀬渓谷歩きの目的の一つはこれで叶った。時間をかけてかなりの
枚数シャッターを切ったが、帰宅後のレビューで使えるものはわずかであった。
全部で4株ほどの開花を確認したが、群生しているわけでなく、道端にポツン
と花を咲かせるここのザゼンソウの咲きようが好きだ。

廃村に着くや、分校跡の斜面を2頭のメス鹿が逃げてゆくところだった。時刻
は12時40分。2時間以上かけて歩いてきた。廃村の中を少し散策してみる
と、湿地の陰からミソサザイが飛び出てきた。ゆるい斜面に沿って沢を上り、
小さな落ち込みの下でホッピングしたあと、飛び上がって藪のなかに紛れてし
まった。その間、シャッターを何枚か切ったが、1枚としてまともな写真はな
かった。体長10センチ、わが国の野鳥の最小部類に入るミソサザイの撮影は
手ごわい。

そのまま昼飯にする。コンビニおにぎりを食べながらストーブで湯を沸かす。
ゴーっというストーブの音を聞くのもずいぶん久しぶり。カップ麺を野外で啜
るのも久しぶりだ。家で食べればチープだけど、外で食べるだけでゴージャス
な気分になる。カラ類が頭上の木に寄ってきて、ひとしきり囃し立てて行った。

下山時、渓流横で脇に逸れたらゴジュウカラ*のペアが営巣活動をしていた。
さて、ここをポイントと決めていた場所、期待通りにミソサザイが大きく鳴い
た。ようやく右ポケットからICレコーダを出して囀り(MP3:クリックで音が
出ます)を録音。先日出たばかりのSONYの新製品は、安い割りに高音質が売り。
使い勝手はよいとはいえないけど、期待以上の音で録音できたのがうれしい。
本日の目的の2つ目は、このICレコーダをフィールドで使ってみることだっ
た。但馬の野鳥写真は一通り撮り終えたから、今後は鳴き声を集めてみようと
いうが、私の新しいフィールドワークのモチベーション。

道と渓流が並行しているので、ミソサザイの観察がしやすい。姿を見せた一羽
の動きを注意深く追い、川原に下りて接近。待機したところから10m先の石
の上に出てきて囀ったミソサザイ*。今までまともな写真が撮れていなかったが、
これでようやく図鑑写真も押さえることができた。本日3番目の目的達成。

不動尊手前の川原からイノシシのファミリーが斜面を逃げてゆくのが見えた。
子供が3頭いた。鹿を見て猪を見たから、あとは蝶を見れば「猪鹿蝶」だった
が、結局チョウは現れなかったのが残念。アカタテハが飛ぶかと思ったが。

上るときは気付かなかったキクザキイチゲが、登山口近くに花を開いていた。
車道を戻る途中、湿った場所にミヤマカタバミが花を閉じようとしているのを
下から覗く格好で撮影した。春爛漫の季節になれば、山に白い花をたくさん咲
かせるだろう。

駐車地点に戻ると、下のキャンプ場では家族連れがBBQの最中だった。
そんなに野外のBBQがいいのかい?と思う。お昼はコンビニ弁当でもいいか
ら、子供たちを連れて山道を辿ってみたらどうだろう。鳥の声を聞き、道端の
花を愛でるだけで、お腹のかわりに心は満腹になると思うよ。

車を出す。窓をあけてゆっくり村の中を過ぎたところで、「ヒーン、ヒーン」
の鳥の声。おや、レンジャクがいる。車を止めて外に出れば、膨らんだ桜の枝
に10数羽のヒレンジャク*が群れていた。最後に思いがけないお土産だった。

撮影:D2X+SIGMA17-70MACRO,*VR300F2.8

 【 登山日 】07年3月21日(水)
 【 目的地 】阿瀬渓谷
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】バンガロー入口路肩〜廃村ピストン
 【 天 候 】晴れのち曇り
 【メンバー】たじまもり
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】P10:30…不動尊12:00…廃村12:40-13:15…P15:15