週末ごとに鳥見に呆けていたら山はすっかり春を迎えている。日ごろの不義
理に報いるためにも、今日は妻たじまを誘って山を歩こう。今シーズン初め
ての山は二人が大好きな阿瀬渓谷。春の花が迎えてくれるはずだ。といいつ
つ、私の肩にはスコープを載せた三脚がしっかり担がれているのだった。
いつものキャンプ場上の路肩に駐車し歩き出せば、タチツボスミレ、ヤマル
リソウの青い花が目につく。左の谷からはミソサザイの歌声。谷間に響き渡
る囀りは、渓谷に春を告げるファンファーレ。ミソサザイのリードボーカル
に絶妙なハーモニーをつけてきたのはオオルリ。ポカポカ陽気の春の山歩き
は実にすがすがしい。
タチツボスミレ |
ヤマルリソウ |
整備の終わった奥の駐車場、以前にくらべかなり広々としたが、ここまで入
るまでの細い道はいつも不安。手前に車を置いて歩くのが安心だ。妻たじま
は路肩で目に付くゼンマイやワラビを少しだけ戴きつつ、私はしゃがみ込ん
ではデジカメで花の写真を撮りながら、いたってスローなペースで山に入る。
出掛けに車に積んだ愛用の山靴はカビだらけだった。そんな山靴でも履けば
いつものように山道はすこぶる歩きやすい。雪解けを集めた源太夫滝を見送
り思案橋を過ぎると、着ていたフリースがいよいよ暑い。
ヤマエンゴサク |
ミヤマカタバミ |
山道に目立つのはミヤマカタバミ、キクザキイチゲの白い花。エンレイソウ
の三つ葉の中央には紫の小さな花が乗っている。あいかわらずミソサザイと
オオルリのアンサンブルは続いている。突然目の前をよぎった黒い陰はクロ
ツグミだろう。ときおり、森の中からクロツグミのスローな歌声も聞えてい
る。
キクザキイチゲ |
エンレイソウ |
湿地ではコチャメルソウとホクリクネコノメが群生している。杉林を抜ける
と不動尊への急登。このコース唯一の山歩きらしい僅かの区間。トチの古木
は若葉を広げはじめ、落差のある滝音がドードーと聞えている。息を切らし
ながら一歩一歩高度を上げ、たるんだ足腰の筋肉に久しぶりに活を入れる。
コチャルメルソウ |
ホクリクネコノメ |
不動尊まで1時間以上かけてのんびり歩いてきた。ここで小休止。ゼリー飲
料を回し飲みして一息つく。数年前に枯れたミズナラの古木は、とうとう朽
ち果ててしまった。懐かしいここの風景も変わってしまった。
歩き始めてすぐの取水ダムの下、カワガラスがいた。ここまで担ぎ上げたス
コープを初めてセットするが、その間に藪の中に隠れてしまった。スコープ
で観察すると岩の割れ目が幾つかあって、おそらくこの中にカワガラスの巣
があるのだろう。少し待ったが出てくる様子もないので今回は諦める。
先ほど鳥仲間のY氏からのコールが携帯電話に入ったが、電波が弱くて応答
前に切れてしまった。何かいいものでも見つけたのだろうか。すでに圏外表
示なので彼へのコールバックは諦めた。
クサソテツの群落場所、コゴミはまだ全然出ていない。妻たじまの本日のお
楽しみだったワサビのポイントでも、まだ出ていなかったのをしきりに残念
がった。私はくたびれたザゼンソウを一つ見つけて満足。ふと彼女の方を見
ると、後ろをヤマドリがススッと走って姿を消した。
朽ち果てた不動尊のミズナラ |
さらに倒壊が進んだ分校 |
何箇所か雪で倒された木が道をふさいでいたが、いつものゴール、廃村の分
校に到着。ちょうど2時間かけて歩いて来たが、このぐらいのペースでぼち
ぼち歩くのがよい。コンビニオニギリとカップラーメンでランチ。ザックの
中に残っていた期限切れのカップ味噌汁は、お湯を入れて作っては見たもの
の、やはり古い油の匂いがして駄目だった。
食後、妻たじまはここで見つけたワサビを摘んでいる。私は廃村の敷地内を
散策。分校はさらに倒壊が進んだが、まだなんとか残り1/3ほどは持ちこ
たえている。ゴジュウカラ、シジュウカラ、コゲラ、アオゲラ、カケスなど
を観察するが写真を撮るまでには到らず。
雪解け水コーヒーで仕上げをしてから下山。帰りは若林経由の周回路をゆく
つもりだった。分岐手前で再びY氏から携帯コール。出るたびに電波が弱く
て話ができない。ようやく繋がったY氏の短いメッセージに耳を疑った。
「ヤツが出た!」
妻たじまに予定変更を伝え、来た道を急かされるように下った。
駐車地点まで戻ると、道端の桜が青空をバックに満開。結局担いで上がった
スコープで鳥を観察することは無かったが、この後、Y氏らの待つポイント
で観察したヤツガシラに、妻たじまと二人で大いに感動したのだった。
山は良かったし、長年の憧れの鳥にも会えたしで、充実した春の一日となっ
た。
※阿瀬渓谷で確認した野鳥
ミソサザイ、ウグイス、ヤブサメ、シジュウカラ、オオルリ、カワガラス、
センダイムシクイ、クロツグミ、ヤマドリ、ゴジュウカラ、アオゲラ、
コゲラ、カケス、メジロ
【 登山日 】03年4月13日(日)
【 目的地 】阿瀬渓谷
【 山 域 】但馬
【 コース 】バンガロー入口路肩よりピストン
【 天 候 】晴れ
【メンバー】妻たじま、たじまもり
【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
【 タイム 】P10:15…金山廃村12:15-13:10…P14:15