阿瀬渓谷に行ってくると言って家を出たものの、途中の鳥見ポイントに寄ら
ずにはいられない。渡去寸前のケアシノスリがいて、1時間ほど観察を続け
ることに。その後、マーケットで買い出しを済ませて阿瀬渓谷に向った。
道中、あちこちでサクラがもう満開を迎えようとしている。
金谷集落を抜け、舗装道が狭まる手前の広い路肩に車を置く。右の斜面に、
ヤマブキの黄色が美しい。歩き始めると青い花が目に付く。タチツボスミレ、
ヤマエンゴサク、ヤマルリソウ。毎年同じ花を見て、同じように写真を撮っ
て、それでも飽きることなく同じことをこの先も繰り返すだろう。
ヤマエンゴサク |
タチツボスミレ |
登山口の駐車場はちょうど工事のまっ最中。広くなって整地もされる様子だ。
休憩小屋を過ぎ、どうどうと水を落とす源太夫滝を左に見ながら登山道に入
る。今日は鳥見用のスコープを担いでおり、歩行ペースは上がらない。お目
当てはミソサザイだ。あの小さな体のどこにそんなパワーが潜んでいるのか
と思うほど、ミソサザイの囀りは大きく美しい。しかし、その姿をじっくり
見るのはなかなか難しい相手でもある。
ヤマルリソウ |
コチャルメルソウ |
いつもの水場に、ホクリクネコノメとコチャメルソウが咲いている。ミヤマ
カタバミは少し肌寒い気温のせいか、花を閉じたままだ。道端で今一番目を
引くのはキクザキイチゲ。これも閉じた花が多いが、日当たりの良い場所で
は綺麗に咲いている。
ミヤマカタバミ |
キクザキイチゲ |
不動滝手前ではエンレイソウが目立つ。ショウジョウバカマも咲き出した。
このコース唯一の山登りらしい不動尊への登りで一汗かくと、数年前に害虫
が入ってすっかり枯れてしまったミズナラがみすぼらしく立っている。
周回コースへの分岐を過ぎるとザゼンソウのポイントである。歩きながら湿
地に目をやるが見つからない。ここのザゼンソウの花期は実のところよく分
からない。雪解け期に咲いていれば、ゴールデンウィークにも見かける。大
きな群落ではないので、少しずつポツポツと咲き続けるのだろう。
エンレイソウ | ショウジョウバカマ |
クサソテツの群落地はまだ眠ったまま。コゴミが出るまではもう少し時間が
かかりそうだ。渓流が大きな水音を立てて流れている。芽吹いて間もないネ
コヤナギが、しなやかに風に揺られている。
左のスギ植林は、元はここで暮らした人々の居住跡。積まれた石垣がそのこ
とを教えてくれる。中を散策してみると、ザゼンソウが一株咲いているのを
見つけた。今日の目的の一つはこれで叶った。スギ林の縁は湿地になってお
り、迫った斜面にはまだ雪が残っている。この雪が解けるころ、そこに一つ
二つとザゼンソウがまた咲くだろう。
分校跡 |
ザゼンソウ |
いつものとおり、分校跡まで足を伸ばす。2年前の雪で大きく崩壊して以来、
建物の姿には変化がない。半壊の建物であっても、そこに在るというだけで
安堵する。建物の石段に腰掛けて少し遅い昼食。オニギリを食べながら、汲
んできた雪解け水でラーメンのお湯を沸かす。
腹がふくれたところで引き返す。コゲラ、シジュウカラが芽吹きの枝で遊ん
でいる。渓流を挟んで向かいの斜面に目をやれば、実に見事なザゼンソウが
一株見えた。橋を渡って左下の渓流沿いを見渡せば、小さな支流の中にまた
ザゼンソウが見つかった。登山路から簡単に下りられるので、写真を撮りに
向った。この個体は、中の花の色が赤っぽい。黄色っぽいのが普通であるが、
図鑑によれば色には個体差があるとのことだった。
キセキレイ |
ミソサザイはあいかわらずよく鳴いているが、どうしても写真を撮らせてく
れないようだ。河原の岩の上にキセキレイがいたので、ようやくスコープを
立てて写真を撮った。セグロセキレイやハクセキレイは平地の河原に多いが、
キセキレイは山の中の水辺が好きな鳥である。スマートで色の綺麗な鳥であ
る。
登山口近くまで下りてきて、ヤマルリソウなどの写真を撮っていると、思い
がけず単独の女性が下りてきた。今日山で初めて出会う人だ。片手にスパッ
ツを持っており、残雪の蘇武岳でも歩いて来たのだろうか。
春先の阿瀬渓谷は静かに目覚めてゆく。夏鳥の声や人々の声で谷が賑やかに
なるのも、もうすぐ。
【 登山日 】02年3月30日(土)
【 目的地 】阿瀬渓谷
【 山 域 】但馬
【 コース 】バンガロー入口路肩よりピストン
【 天 候 】うす曇り
【メンバー】たじまもり単独
【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
【 タイム 】P11:33…金山廃村12:53-13:15…P15:10