ちょうど1ヶ月前、未だ雪の残る阿瀬渓谷を娘たじまと歩いた。連休最後の
日曜日、この季節のワサビ摘みを楽しみにしている妻たじまを伴って、再び
阿瀬渓谷を歩いた。お供は末っ子のこたじま/GEN。
朝、円山川の河原でオオヨシキリの観察をしている最中、携帯電話に着信が
あった。早く山に行こうという催促だった。急いで家に戻り、山行きの準備
をして車を出した。途中のスーパーで買い出しを済ませた後、金谷へ向かう。
渓谷入口の広い路肩に車を止め、ここから歩くことに。
ホウチャクソウ
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新緑まぶしい渓谷
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渓流でミソサザイがソプラノを歌えば、高みからはオオルリが緩やかなメロ
ディで応える。「ポポポ…」とパーカッションを入れるのはツツドリ。ジュ
ウイチの切ないシャウト。鳥たちの素敵なアンサンブルを聞きながら、ゆっ
くりと足を進める。1ヶ月前は青色の花が目立った登山道は、今は白い花が
沢山咲いている。
不動滝の急傾斜を登り切ると、一気に汗が吹き出る。今日は気温が上がって
初夏の陽気だ。空腹を押さえながら、金山口のワサビ摘みのポイントに向か
う。川べりのクサソテツの群落が、一際鮮やかな緑色の風景を作っている。
ほとんどが葉を伸ばして、コゴミとしての時期は過ぎていたが、先の丸まっ
た若葉を少しお土産に戴いた。帰宅後、茹でたてをマヨネーズ醤油で食べた
が、これがたいへん美味しかった。
ニリンソウ
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クサソテツの群落
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クサソテツの群落の片隅に、思いがけずザゼンソウの花を一株見つけた。
かなりくたびれていたが、得をした気分になってシャッターを切った。
ひょっとしてとあたりを探したが、この一株以外の花は見つからなかった。
2年前の同じ時期、同じメンバーで同じ目的でここに来た。その時と同じ川
ベリでお昼にする。なんだかデ・ジャビューな気分。二人で缶ビールを空け
る。「見て見て!そこ!」と、突然妻たじまが叫ぶ。すぐ横の岩の上に、ミ
ソサザイが虫をくわえて止まっているのが肉眼でもはっきり見えた。スズメ
より小さなこの鳥が、谷じゅうに響き渡る大きな声で歌うのだ。
お腹が一杯になったところで、妻たじまはいそいそとワサビ摘みに向かった。
すこしたってから追いかけると、思いのほかたくさん収穫できて嬉しそうな
彼女の姿があった。しばらくの間、我が家の食卓で春の味が楽しめそうだ。
ザゼンソウ
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ワサビ
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今日は廃村まで行かず、ここで引き返す。そのかわり、金山口から右に折れ、
洗心台を経て若林の谷を下りる周回道に入った。こちらの道は、ひと山越え
ることになるため、適度な山歩きが楽しめる。金山口からすぐに上りとなり、
白寿階段と名づけられた階段道を踏みしめれば、ほどなく松風園と呼ばれる
広場に到達。さらに緩やかに上って、標高650mの洗心台ピークに達する。
登山道のイワカガミが満開で、ピンクや白の花を咲かせて美しい。チゴユリ
の咲く一画があり、うつむいた小さな花を地面に腹ばいになって撮影した。
ひっそりと咲くチゴユリの花を、私は気に入っている。
イワカガミ
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チゴユリ
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洗心台からの急な道は小さな谷に下り、やがて若林の渓谷に合流する。合流
点には、「阿瀬渓谷森林浴場」という標柱があり、「浴場」という表現が妙
に笑えた。ここには関電の取水口があり、地下水路を通した金山側の水をこ
こで合流させ、麓の発電所に送り込んでいる。
若林川を遡った先には妙見山があり、かつては妙見参拝の参道として使われ
ていたという。関電取水口から奥、妙見へ通じるルートは今では閉ざされて
いる。ここが参道だった証として、登山道脇の崖の上に磨崖仏を見ることが
できる。
森林浴場の標柱
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関電取水口
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今回、初めてここの磨崖仏を見に行った。取水口の下に古い磨崖仏への道標
があるが、今は現場直下からショートカットで到達できる。鎖を伝って少し
上ったところにその磨崖仏はあるが、崖に直接彫られた仏様は、果たして柔
和な表情をしたお地蔵様だった。
登山道にある説明板によれば、この地蔵尊は室町時代の作とのことである。
つまり、今から600年ほど前の、人々の信仰の足跡を見るのである。磨崖
仏のあるあたりは深い谷になっており、参道を行き来する人々の安全を祈願
して彫られたものなのだろうか。
磨崖仏遠景
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磨崖仏の正体はお地蔵様
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深い谷間にオオルリとクロツグミの声が交互に響き渡る。沢音と彼らの歌声
が交じり合う新緑の渓谷歩きは、浮世の由無し事を忘れさせてくれる至福の
時間だ。
若林廃村を過ぎ、昔の人々の生活の跡を随所に感じながら谷を下る。楓の滝
で若林川を跨ぎ、少し上り返すと一際大きな滝音が近づいてくる。源太夫滝
の滝頭から左に大きく巻く。右手は深く切り立って、若林川と阿瀬川がここ
で出会う。崖から張り出した木の枝にオオルリを見つけた。妻たじまとこた
じま/GENに双眼鏡越しの青い鳥を見せてやった。
楓の滝
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思案橋
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思案橋で周回道が閉じ、ここからはいつもの道。阿瀬川に沿って金山廃村ま
で往復するのが常であるが、この周回道を使えば阿瀬渓谷散策の楽しみがさ
らに膨らむ。そんな新たな喜びを胸に、谷を後にした。
【 登山日 】2001年5月6日(日)
【 目的地 】阿瀬渓谷
【 山 域 】但馬
【 コース 】森林浴場周回(現地案内板参照)
【 天 候 】曇り時々晴れ
【メンバー】妻たじま、こたじま/GEN(小6) 、たじまもり
【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
【 タイム 】自宅発10:40…渓谷入口P11:40…金山口12:35-13:35…
松風園14:00…若林取水ダム14:50…思案橋15:40…P16:00
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