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信仰と静寂の青倉山


青倉神社参道
青倉神社参道(中段右の道標が登山路)


 「さて、どこに行こうか?」 南に向かって車を走らせながら、まだ行き先
 を決めかねていた。右岸道路が和田山に近づくと、粟賀山のどっしりした山
 容が逆光の黒いシルエットとなって町の向こうに立ちはだかっていた。
 「粟賀山にするかな…」 しかし、この山を往復するには今日は時間の余裕
 が無い。結局、家を出る前にガイドブックで調べた青倉山に向かうことに決
 めた。
 
 和田山のスーパーで買い出しを済ませ、R312を南下。見なれた国道脇の
 大きな鳥居。この交差点を左折し、初めての谷を走る。やがて、山裾に同じ
 デザインの小さな小屋が立ち並んでいるのが見えてくる。「クライン・ガル
 テン伊由」と呼ばれる、滞在型の市民農園だ。最近、環境系の言葉にドイツ
 語をそのまま持ってくるのが流行っているらしい。ビオトープだの、クライ
 ンガルテンだの、なんだか日本の風景には似合わない言葉だと、私は思う。
 
 谷の奥の小さな集落の道標に従い、右折して林道を駆け上がる。完全舗装の
 林道上には到るところで小さな落石が見られ、助手席の妻たじまが不安がっ
 た。やがて多々良木ダムからの林道と合流し、青倉神社の駐車場に到着。林
 道はそのまま延びており、黒川ダムに下りているらしい。ここに来る間、路
 肩には黒川温泉の案内が何本も立っていた。
御神体の大岩
御神体の大岩
気持ちよい広葉樹の森
気持ちよい広葉樹の森
 準備を整え、鳥居をくぐる。山に沿って参道を回り込むと、階段の上に古い  神社が見えた。長い信仰の歴史を感じさせる佇まい。まずはお参りをする。  この神社、目の神様ということだ。神社脇の清水にはホウ酸が含まれていて、  それが目の病に効くらしい。単純な私は、眼鏡を外してその水で目を洗った。  このところ進行中の老眼が、多少なりとも改善されるだろうか?(まさか)    本殿は、裏の奇岩を抱くような形で建造されている。この岩が神社の御神体  のようだ。確かに、この奇妙な立岩は何かしら神がかって見える。今でこそ  林道を使って誰でも簡単にアクセスできるが、昔の人々は、奥山のこの神社  を目指して、苦労しながらお参りをしたのだろう。  お参りを済ませ、階段を下りる。中ほどに青倉山40分の道標があり、それ  に従って山道に入る。奥の院のお堂を過ぎ、気持ちのよい自然林の中を辿る。  オオルリ、キビタキ、クロツグミ、ツツドリ。夏鳥の声を聞きながらゆっく  り高度を上げる。途中の沢で道が不明瞭となるが、右上に道標を発見。息が  切れる頃、峠に到着。下れば黒川ダムに到る。ここを左折し、植林のきつい  斜面をしばらく登る。妻たじまは体調が思わしくないらしい。この急登でど  んどん距離が離れてしまった。登り切った小ピークで彼女を待った。  15分後、冴えない顔をして彼女が到着。山頂は今居る小ピークを少し下り、  再び登り返す。彼女はこれ以上歩けそうもないと言い、ここで待っているか  ら私だけでピークを踏んで来いとのたまう。それではつまらないので、何と  かなだめすかして二人で先に進むことに。彼女のザックの中身を、すべて私  のザックに移した。
峠(左:黒川 右:青倉神社)
峠(右:青倉神社 左:黒川)
厳しい登り
厳しい登り
 山頂までの道のりは思ったほどで無く、妻たじまと二人で初めてのピークを  踏んだ。山頂には関電の巨大な反射板と、麓の村のテレビ共用アンテナなど  が立ち並んでいる。展望にもあまり恵まれないが、東に粟賀山が印象的に望  める。三角点の広場の西は、地元の人たちの手によるものだろうか、雑木が  切り払われて下界を見下ろすことが出来る。  弁当を食べ、熱い味噌汁を啜るうちに、妻たじまの元気も回復してきたよう  だった。山頂からの携帯電話は3本立ち。妻たじまは留守番の子供にコール、  私は山仲間にメール。なんだかんだと言いながら、新しい道具の便利さには  かなわない。
青倉山山頂
青倉山山頂
粟賀山を望む
粟賀山を望む
 天気は下り坂に向かっている。空気が湿っぽくなってきた。来た道を引き返  す。シカの仕業だろう。木の樹皮が同じくらいの高さの所で剥がされている  ものが目に付く。山頂から少し戻ったところで、右に下る細道に気付いた。  下りてみるとそこには小さな祠が建っていた。登山路の木に、「奥の院50  m」と書いた板がぶら下っていたが、このことだったのか。青倉神社の側に  あったお堂も奥の院らしいが、この場所の方が奥の院という雰囲気ではある。  登山路に戻る途中、妻たじまが花を見つけた。この山を歩いて、初めての花  らしい花に出会った。後で調べて、イナモリソウだと分かった。小さな可愛  い花だった。
山頂直下の祠
山頂直下の祠
イナモリソウ
イナモリソウ
 植林の急傾斜も、下りは早い。途中でギンリョウソウを見つける。妻たじま  はこの花が「妖精の花」みたいで好きだと言う。確かに、暗い森の中でハッ  と目を留める魅力を持つ花ではある。あっという間に峠に出て、再び自然林  のすがすがしさを味わいながらゆっくり下りる。ここでも、登るときには気  付かなかった白い小さな花を見つけた。これも後で調べて、ツルアリドオシ  という花だと知った。
ギンリョウソウ
ギンリョウソウ
ツルアリドオシ
ツルアリドオシ
 青倉神社の参道を下りながら、「なかなかいい山だったなあ」と二人で言い  合った。展望には恵まれない山頂ではあるが、神社から峠までの道は素敵だ。  紅葉の季節にもう一度歩いてみたいと思った。  帰り道、伊由峠を超えて山東町の与布土に向かい、与布土極楽温泉で汗を流  してから帰途につく。600円の入湯料はチト高い。  さて、未開拓の南但エリアの山歩きを、この先しばらく続けようと思ってい  る。今回はその第一弾となった。  【 登山日 】2001年6月17日(日)  【 目的地 】青倉山(811m)  【 山 域 】南但馬  【 コース 】青倉神社よりピストン  【 天 候 】曇り  【メンバー】妻たじま&たじまもり  【 マップ 】「ふるさと兵庫50山」(兵庫県山岳連盟編)参照  【 タイム 】自宅10:40…青倉神社P(475m)11:55-12:00…峠(675m)12:33…        ピーク(760m)12:43-57…山頂(785m)13:09-13:30…峠13:58…        青倉神社P14:25        ※括弧内の標高は腕時計の高度計の指示値