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竹野川回帰


 「タダシ!そこでじっとしてろ!」 ブルックサイド氏の大声を背中で聞き
 ながらパドルを早めた。左岸寄りの深みで艇がひっくり返っており、タダシ
 がなす術なく浮いていた。左岸には上陸する場所がなく、レスキューベルト
 をグラブロープに引っかけて右岸まで牽引した。タダシは水舟のスターンに
 掴まって嬉しそうに引かれていった。
 
 ほどなくブルックサイド氏が到着し、二人で水出しを行う。コクピットの中
 からラミネートされたプリントがこぼれ落ちてきた。93年、ここで行なわ
 れた川下りの計画書だった。「この写真はお前だ」 ブルックサイド氏が印
 刷されたモノクロ写真を見て私に言った。竹野川でグラスファイバー艇を漕
 ぐ私の姿がデザインされていた。
 
 あれから6年になる。この川でカヌーに魅せられ、やがて自艇で但馬の川を
 あちこち漕いで回るようになった。竹野川は私にとってカヌーの原点であり、
 その豊かな自然が川を下る楽しさを一層引き立ててくれた。長らく竹野川を
 漕ぐチャンスがなかったが、今日こうして久しぶりに戻ってこれた。
 水出しを終えて我々が立っている岸辺を見れば、そこはミクリの自生地であ
 り、イガグリ状の緑色の実が沢山付いていた。
スタートは下塚右岸
スタートは下塚右岸
 轟橋手前の堰堤を越え、浅い流れの中をしばらく艇を引きずって歩く。轟の  淵に漕ぎ入れば、澄んだ水に真夏の暑い光が溶けては涼しげに揺れた。中州  で上陸し、全員が揃うのを待ちながら休憩。大人も子供も、冷たい川の水で  火照った体をクールダウン。  2週間前に竹野町にやってきたという、新しいALTステファニーと言葉を  交わす。テキサス娘の彼女は、母国では川や湖で泳ぐのだという。あちらは  水温も高いが、ここの水はとても冷たくて気持ちがよいと水着姿で笑った。  カヌーは中学校以来とのことだったが、パドリングはなかなか上手だった。  全員が揃ったところで出発。堰堤バックウォーターでTスラのベガさんに漕  ぎ方の基本を教える。どうしても真っ直ぐ進まないと首をかしげているが、  そのうち体が覚えるだろう。大きな堰堤を越え、次の堰堤のバックウォータ  のストレートを漕ぐ。時々振り返ると、黄色のベガ艇が右に左に水上ダンス  していた。
轟の淵で休憩
轟の淵で休憩
 鬼神谷の堰堤を越えると川幅が狭まり、水量も一気に減少する。小丸橋手前  の小さな淵で網を入れている一団が居たが、獲物は少ない様子だった。橋の  下流でしばらくライニングダウン。右にカーブしてJR鉄橋へ向う水路が気  持ちよい。水面を透かして、魚が行き来する様子が見える。鉄橋をくぐれば、  ちょうど下りのディーゼルが2両連結で通過し、しばらくしてその鉄橋を一  人の婆さんがのんびり歩いて渡ってゆくのが見えた。    狭く緩い瀬を下れば淵があり、その先の左岸河原でランチタイム。ちょうど  お昼のサイレンが鳴った。すぐ先では、地元小学校の恒例行事だという、筏  下りのイベントが行なわれていた。緑色のキィウィ2や、赤いオープンカヌー  も浮かんで、賑やかな様子であった。    サポート隊の車が左岸にやって来て、弁当と飲み物を運んでくれた。ビール  をプシュっとあけて、グビグビグビっとやる。ひやぁー!最高!うま〜い!  弁当の後は、ブルックサイド氏と子供達による漁が始まった。河原では獲物  を焼く準備はすでに整っており、後は川の恵みを待つばかりであった。    「ワシも腕が落ちたっちゃ」と、漁に不満のブルックサイド氏であったが、  子供達が突いた小さな鮎などがさっそく塩焼きにされて振る舞われた。  ステファニーに鮎の匂いを嗅がせながら、キューカンバー・フィッシュだの、  ウォータメロン・フィッシュだのと、かわるがわるが鮎の説明を試みた。  私は焼き上がった小さなカジカの一切れを口にしたが、これが淡白でなかな  かいけるのだった。
本日のスペシャル
本日のスペシャル
 我々が出発する頃には、賑やかだった筏下りイベントもすっかり片付け終わっ  ていた。運動公園前の最後の堰堤を越える。堰堤下では網を入れているK氏  に出会う。古いコンクリートブロックの水路を出ればもう海が近い。左岸寄  りに進めばガマの穂が並び、時折近くでボラがジャンプした。橋の上を行く  女性二人連れが私を見つけ手を振った。少し恥ずかしく思いながら、彼女た  ちに手を振って応えた。「気持ちイイですかぁ〜?」などと叫んでいる。  さすがに「気持ちイイですぅ!」と叫ぶ勇気はなく、適当な言葉を返しなが  ら橋を抜けた。  河口河川敷の左岸無料駐車場に上陸すると、照り返しの熱気にムッと包まれ  た。思い思いのペースで最後のコースを漕ぎ切った参加者たちが、三々五々  ゴールインした。小一時間ほど待って、コンチキ号のブルックサイド氏とそ  の息子タダシがゴールインした。上陸した彼の手には、竹野川のシンボル的  魚であるアユカケの死体が握られていた。噂通りの顔つきをしたユニークな  ヤツだった。  竹野川は、6年前とほとんど変わらない姿で迎えてくれた。他の河川では気  になる様々なゴミも、この川ではほとんど目に付かなかった。舟の上から川  底まで見通せる綺麗な水は、この川を大切にしようとする人々の気持ちを映  しているようでもあった。そんな竹野川に、たくさんの生き物たちが育まれ  ている。竹野川には、命の水が流れている。そう感じた。  【 行動日 】99年8月1日(日)  【 河 川 】竹野川  【 流 域 】兵庫県北部  【 コース 】下塚 〜 河口  【漕行距離】約5.5Km  【 天 候 】晴  【メンバー】ベガ on T-Slalom, Takao on Invader,        たじまもり on Cyclone, その他大勢        *ブルックサイド氏コーディネートの竹野町中央公民館行事  【 タイム 】下塚10時頃…河口16時頃  【 マップ 】5万図「城崎」参照  【 川情報 】・水量は少ないが、水は綺麗        ・川幅が狭いので釣人には注意        ・堰堤越え4個所