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風に向かって漕げ!/但馬・円山川

  雨音で目が覚めた。昨日の夕焼けに希望をつないだが、台風17号の雲の端
  くれは兵庫県北部の空にもしっかり渦巻いているのだった。今日は一日ゆっ
  くりしよっと。再びまどろんで、8時過ぎに起き出す。約束のアクセス時間
  にすのーべるさんの書き込みを確認する。何!? GO!? 7時に養父神社まで
  確認に行っただとぉ。こりゃ、リキが入ってるなあ。雨は上がったようだが、
  早い雲が絶え間なく上空を流れていた。10時集合のアナウンスに従いボチ
  ボチと準備を始めた。すのーべるさんの観測によれば、これから天気は急速
  に回復に向かうという。ホンマかいな?

  六方田んぼを渡る風はまさしく台風の風だった。強い北寄りの風が車を揺ら
  した。時間どおりにすのーべる艇庫に到着。見慣れたTakao 号がインベーダ
  をカートップして止まっていた。すのーべる号では見慣れぬ丸刈り外人が準
  備をしていた。すのーべるさんの紹介で、彼がトムと名乗る男であることを
  知る。"ナイストゥミ〜チュゥ!"  久しぶりの英語に舞い上がりながら手を
  差し出す。豊岡で英語を教えるオーストラリア人だった。

  Takao 号に私のキィウィ2を乗せ換える。2艇を縦積みにした青いサニー・
  カリフォルニアは、まさに凛々しく格好良かった。俺達はパドラーなんだぞ。
  車全体がそう言っているようだった。それにしても、真っ赤なキィウィ2を
  縦積みにすると、どえりゃ目立つもんだなあ。コクピットから顔を覗かせる
  スイカ柄のビーチボール浮力体がご愛嬌だ。途中で缶ビールとラーメンを仕
  入れ、和田山の糸井橋下流の出艇ポイントに向かった。

  小さな支流を少し歩いて、今日は早い流れの円山川本流に乗る。11時10
  分出艇。すのーべるさんと私はいつものキィウィ2、Takao さんは新しいイ
  ンベーダ。7月の進水式以来の円山川だ。特別ゲストのトムはTスラローム。
  3人の同窓会親爺と、我々とは一回りも若いトムの4人がいよいよ漕ぎ出し
  た。空は相変わらず雲が早い。雲の切れ間から青空も少し見えているが、向
  かい風は時折強烈だ。17Km先の江原まで、果たして完漕できるのだろう
  か。不安な船出ではあった。

  すぐに高田の流れ橋。橋のワイヤーに舟のロープを掛け、上によじ登ってみ
  る。なるほど、こんな風に橋が架かっているんだ。八つ橋そっくりの簡素な
  橋が、昔ながらの川の風景を写し出していた。橋の向こうに彼岸花があった。
  適当な瀬が現れては喜ぶ。水量が多く、底を擦ることもない。Takao さんも
  トムも安定したパドリングである。それにしてもTakao さんのインベーダは
  波の上を滑るように進むのだった。バウとスターンが反りあがっていて、水
  の抵抗が小さいのだ。面白いように機敏な動きだ。Takao さんの楽しんでい
  る様子が分かる。

  道の駅「やぶ」手前の瀞場まで来ると、向かい風はますます強まった。時折
  小雨の混じる強風は容赦なく吹き付ける。トムの丸坊主は、今日のような強
  風の中では抵抗を受けず有利なのだろうか。まさか。彼の力強いパドリング
  は若さだ。すのーべるさんと私のキィウィ2は、風の抵抗をモロに受けて苦
  戦を強いられた。少し気を抜くと上流に押し戻され、艇が横を向いてしまう
  のだ。風に逆らって艇を前に向けようとするが、これがなかなかいうことを
  きかない。これほど辛いパドリングは初めての経験だった。

  いくつか越えた堰堤も、前回とはまったく違った障害となって立ちはだかっ
  た。水量が少し違うだけで、川の表情は大きく違う。オーバーフローの落ち
  込みに捉まらないよう、4人で協力しながら慎重に越えた。養父神社手前の、
  ちょうど道路脇に錦鯉のハリボテがある下は、今回最大の瀬があった。堰堤
  下から一気に流れに突っ込む。大波がバウを洗い、顔面に飛沫が飛ぶ。ヒョ
  ォー、こりゃオモロイ! 養父神社前のせせらぎに乗り、瀞場で再び風に翻
  弄される。ぜんぜん前に進まん。同じキィウィ2でもすのーべる号の方が進
  むのは、やはり体重の差なんだろうなあ。軽い私の精いっぱいのパドリング
  は、むなしく水を切るばかりで艇を進める推力にはならなかった。風の切れ
  間をねらってようやく体勢を建て直し一気に距離をかせぐ。こんな凄まじい
  努力を、今日は最後まで続けなければならなかったのだ。

  大屋川合流手前の狭い水路。右にブロックがあって注意が必要な場所だが、
  水量の多い今日の方が危険を感じなかった。瀬に入る手前でトムがこの日唯
  一の沈を皆の前で披露してくれた。気温が低く、風の強い川の中。しかも我
  々のようにウェットスーツで身を固めているわけでもない彼は、たぶん冷た
  い思いをしたに違いない。それでも最後までカヌーを楽しんでいた彼は頼も
  しい奴だった。

  大屋川出合の河原に上陸。12時45分。同窓会親爺がそれぞれに湯を沸か
  しラーメンの昼飯。Takao さんはヨモギアンパン、私はボイルしたソーセー
  ジを配給。食後はTakao さんのモンカフェをご馳走になった。風は一向に弱
  まる気配がなく、雨も落ちてきた。この先、コース最大の瀞場が待ち構えて
  いる。ここは風のない時でさえウンザリする場所だ。その終点に立ちはだか
  るこれもコース最大の堰堤。すのーべるさんより本日のツーリング中断が言
  い渡される。誰も反対しなかった。「おかしいなあ。今日は天気がどんどん
  良くなるはずなんだけどなあ」 恨めしそうに皆で空を仰いだ。

  舞狂橋ですのーべるさんが妻ーべるさんにエマージェンシーコール。橋の少
  し下の工事現場に上陸。片づけをする間に救護車到着。すのーべる、Takao 
  さんを乗せて出艇地まで車を取りに向かった。車が戻ってくる間、トムとい
  ろいろ話した。会話は英語が中心だったが、分からなくなると時々日本語で
  ごまかした。彼は在日3年目であるが、まずまずの日本語ができるのだった。
  オーストラリアの大学を出てから英国に渡って出版社に勤めたこと。JET
  プログラムに興味をもって日本に来たこと。青森で1年のつもりが、すっか
  り日本が気に入って帰国を延ばしてしまったこと。青森での冬は毎日スキー
  をしたこと。今年1月にフランス人と結婚したこと。来年からフランスに行
  ってフランス語を勉強すること。そんなことを楽しそうに話してくれた。

  帰りにすのーべる邸でお茶を呼ばれた。そのころになると空も明るく、風も
  弱まったようだった。筋肉を使ったあとは気持ちいいね。トムが笑った。
  インベーダで初めて瀬を下ったTakao さんも満足げであった。もちろん、す
  のーべるさんも私も、楽しい時間をすごした。予定コースの半分以下で終わ
  ったけれど、普段の2倍以上は筋肉を使っただろう。心地よい疲労感が急に
  襲ってきた。

 【 行動日 】96年 9月22日(日)
 【 河 川 】円山川
 【 流 域 】兵庫県北部但馬地方
 【 コース 】和田山町糸井橋〜八鹿町舞狂橋(江原までの予定を中断)
 【漕行距離】約7Km
 【 天 候 】強風、曇り時々小雨(台風17号が太平洋沿岸を東に移動中)
 【メンバー】すのーべるさん(Keowee2)、Takaoさん(Invader)
              トム(T-Slalom)、たじまもり(Keowee2)
 【参考地図】5万図/出石
 【 タイム 】糸井橋下流 11:10 → 大屋川出合 12:45-13:40 → 舞狂橋 13:50
 【 川情報 】・糸井橋右岸の側道突き当たりから出艇
       ・堰堤越え3ヶ所
       ・瀬は1〜1.5級程度