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萌黄の水を漕ぐ/円山川中流域

 いつもの河原で艇を降ろそうとした時、「お〜い」という遠い声を聞いた。
 目を上げるとすのーべるさんが自宅のテラスから手を振っているのが見えた。
 こちらも手を振って応える。何か言葉を続けているが、さすがに聞き取れな
 くて作業を中断し堤防に戻る。すのーべるさんも堤防に上がってきてやっと
 会話が成立。予定の訪問者との会見が早く終わり、フリーになったという。
 天気も最高。すこし上流から漕いでみようということになり、急ぎその準備
 にかかった。

 およそ5.5Km上流の宿南(しゅくなみ)の堤防下に車を入れる。付近に
 は釣り人2名。雰囲気からしてルアーだろう。川岸まで車をつけて出艇準備
 にかかる。すのーべるさんは黄色のTスラローム、私は青のサイクロン、こ
 たじま/YUU&GEN は赤のキィウィ2。交通信号のような取り合わせ。すのー
 べるさんのスプレースカートの取り付けを手伝うが、どうもうまくフィット
 しない。あきらめてスプレー無しで出艇。

 大きな瀞場が進美寺(しんめじ)山の裾野に広がる。人の手が入らない河原
 の風景は原野としての面影を残し、植物学的にも注目の場所である。午後か
 らの向かい風は結構きつく、はじめて男こたじまだけで川を下るキィウィ2
 は最初から方向が定まらない。漕ぎ始めは仲良く声を掛け合ってシンクロし
 ていたが、すぐに兄貴の罵声が飛び、バウシートの弟は大人しくお客様に徹
 したようであった。そのこたじま/YUUも、今日は長く乗る予定でなかったキ
 ィウィ2を任されて不安な様子であった。パドルのしずくが容赦なくジャー
 ジーを濡らし、すぐにパンツまでぐっしょりになって意気消沈の様子であっ
 た。「カヌーは濡れるもんだ!」とすのーべるさんが一喝。我々はしっかり
 ウェットを着ているのであった。(^^;

 鯉のねぐらでは、大きな金鯉が背ビレを水面に輝かせてのんびりしている。
 おっし、ルアーで釣っちゃる。何度か投げ入れるが、引っかかるのは金魚藻
 だけ。鯉のアライを食いそびれたことは、つくづく残念であった。私が釣っ
 た大物は、すのーべるさんがさばいてくれる予定になっていたのだが、「逃
 した魚は大きい」以前の問題であった。川下りの途中、時折サイクロンから
 ルアーを投げてみたが、金魚藻以外の獲物は結局最後まで掛からなかった。

 ジュースで喉を潤しながら瀞場を行く。いつものキィウィ2であれば、好き
 な時にジュース(麦ジュースの方が良いが(^^;)を口にしたり、双眼鏡を出
 したりできた。サイクロンの場合はそうは行かない。スプレースカートでコ
 クピットの中は見えないし、第一漕ぐ以外の余計なことをするようなフネで
 は無い。ジュースを飲む時は母船のキィウィ2に寄って、こたじま/GENより
 配給を受けねばならないのだ。考え様によっては、母船を同行さえすれば、
 プレイボートでの遊びも楽しくなるということだ。これはこたじまたちをも
 っと鍛えて、一人前のサポータに仕上げることにしよう。

 山の斜面は萌黄色に輝き、やさしい光を水面に投げていた。パステル色に彩
 られた梢からは、野鳥たちの伸びやかな歌声が聞こえていた。川べりの柳の
 枝にモズがとまって、オオヨシキリのような声で囀っていた。姿を見なけれ
 ば危うく騙されるところだった。めっきり少なくなったカモたちも、我々に
 驚いて一斉に飛び立った。今、冬鳥と夏鳥の入れ替わる季節である。河原の
 菜の花が黄色く揺れている。

 右岸河原に上陸。こたじま達は濡れたパンツ一丁の尻を西日に向けている。
 熱いコーヒーとカップラーメンで一息ついた後、瀞場から流れ出す緩やかな
 瀬を滑り下りる。右に大きくカーブして赤崎橋手前のバックウォータ。先行
 のすのーべる艇がいつの間にか視界から消え去り、消波ブロックに吸い込ま
 れたのではないかと心配した。橋の下のブロックを艇を引きずって越えるが、
 こたじま達を乗せたままキィウィ2を越えさせるのに一苦労した。

 赤崎の河原は3月の終わりまで河川工事を行っていた。新しい消波ブロック
 が左岸に沈められ、本流を吸い込んでいた。こたじま艇を、突入しても安全
 と思われる場所まで誘導し手を放して見守るが、うまくコントロールできず
 に横になりながらテトラに吸い寄せられ、そのままテトラに沿って後ろ向き
 に流されて行った。一瞬緊張したが、大型ポリ艇ならではの安心感はあった。
 テトラの前はパワーのあるラピッドになっており、ちょっとしたサーフィン
 ウェーブが立っていた。ここでちょっと遊んでやろうと漕ぎあがったが、右
 のテトラが気になってしょうがない。こんなところで遊ぶもんじゃないと、
 すぐにバウを下流に向ける。艇が横を向いた瞬間、一気に水のパワーが艇に
 襲いかかった。あやうく上流側に倒されるところで立ち直り、ことなきを得
 た。危ない危ない。

 友人のTakao さんが「但馬ライン」と呼んだ溶岩地形の瀞場を行く。瀞場に
 入る瀬ですのーべるさんがボイルに翻弄されるがローブレイスでうまくリカ
 バー。なかなか落ち着いたパドルさばきである。サギ山は繁殖の時期らしく、
 巣に座ったまま動かないサギたちが警戒の声を我々に投げた。左から稲葉川
 が細い流れで合流し、本流は右に大きくカーブ。

 右岸に上陸し、すのーべるさんに先導されて「秘密基地」の探索に向かう。
 草をかき分けて小高い段丘に上がると、そこはかつて人が耕した農地の跡が
 広がっていた。整然と植えられた桑の木は伸び放題に伸び、わずかな踏み跡
 が人の匂いを残していた。小さな作業小屋があって、土まみれの木組みの梯
 子や錆付いたノコギリが散在していた。すのーべるさんが、彼のおじいさん
 が残してくれたこの土地に、我々の秘密基地を作ろうと夢見ている。四方を
 木に囲まれた窪地を案内して「ここに高床の砦を作ったらいいね」。広々と
 した草原を見せながら「この場所もいいだろ」。中年トムソーヤは、小さな
 夢を語りつづけるのであった。

 最後の小さな瀬を下りると、いつもの河原。日は傾いて、夕焼けの色が混じ
 りはじめていた。はじめて自分達だけで漕ぎ切ったこたじま達は、水に濡れ
 たことがひどく気に入らなかったらしく、すのーべる邸に飛んで帰って、熱
 いお風呂を入れてもらった。回収に向かう車の中で、「カヌーっていいよな
 あ」、しみじみと言葉に出しながら、あっという間に流れ去る、今しがた下
 ったばかりの川風景を窓から追った。萌黄の水は、急速に夕暮れ色に濃くな
 っていった。

 【 行動日 】97年 4月27日(日)
 【 河 川 】円山川
 【 コース 】八鹿町宿南河原〜日高町江原河原(すのーべる邸裏)
 【漕行距離】約5.5Km
 【 天 候 】快晴
 【メンバー】すのーべるさん on T-Slalom、こたじま/YUU&GEN on Keowee2
       たじまもり on Cyclone
 【 タイム 】宿南河原 14:30頃 → 江原河原 17:30頃(時計は見なかったなあ)
 【 川情報 】・赤崎橋下の沈下ブロック越えに注意
       ・赤崎橋下流左岸の消波ブロックに注意
       ・「但馬ライン」入り口の左クランクの瀬に注意